豚汁
わたしがこの世で一番好きな食べ物は豚汁である。とりわけ母が作った豚汁は世界一おいしい。とはいえ、豚汁は誰が作ったものでも大概とてもおいしい。
昔オーストラリアにワーキングホリデービザで滞在していた頃、同じ宿に泊まっていた日本人の友人たちと、好きな食べ物の話になった。もちろんわたしの答えは豚汁。
まったくなんの期待も予測もしてなかったのだが、数日後のわたしの誕生日に、友人たちはケーキと豚汁を振る舞って祝ってくれた。
味噌やら白菜やらネギやら豆腐やら、当時のパースでは揃えるのが大変な食材も多かったろうに、、、と大変感動していただいた。
今は別居している夫とまだ付き合っていた頃、彼もわたしの誕生日に豚汁を作ってくれた。わたしが日頃から、母の豚汁が世界で一番おいしいといい続けていたからか
おいしい、おいしいと食べるわたしに、及び腰で「お母さんの豚汁とどっちがおいしい?」と聞いてくるから、答えにすごく困った。
母の世界一の豚汁の地位は揺るがないものだったけど、そこはあえて言わず、この豚汁がすごくおいしくて、大変うれしい、というようなことを話した気がする。
また夫に豚汁を作ってほしいなーとか思うことも、あの頃はまだ仲が良かったのかーなどと感傷に浸ることもないけど、
なんか人生であのことを経験できたのはとても良いことのように思う。
ずいぶんと寒くなってきて
母が豚汁を作ってくれた。
やっぱり母の豚汁は
世界一おいしい。